豊川閣妙厳寺は千手観音を本尊とする曹洞宗のお寺。ご本尊の鎮守である「豊川吒枳尼眞天(だきにしんてん)」が商売繁盛や家内安全、福徳開運の善神として全国に広がり、「豊川稲荷」という呼び名で親しまれている。日本三大稲荷のひとつに数えられており、初詣には大勢の参拝客が訪れる。2021年には13年ぶりに住職が交代し、40代の福山憲隆さんが就任した。その福山住職の片腕として、接客の役を務めているのは、役寮の草間寛之さんだ。草間さんは福山住職と長い付き合いで、年齢も近いことから何でも言い合える仲だ。
草間さんは埼玉県蓮田市で、サラリーマンの家庭に生まれた。苦労して入った大学では、学業に専念できず、先の目標を見失ってしまったという。その後、寺の僧侶である母方の祖父や伯父に勧められて仏道へ。伯父の計らいで、豊川稲荷と永平寺で修行を積み、2005年に豊川稲荷の僧侶、役寮となった。
中枢部の若返りと時期を同じくして、福山住職の代になってすぐにニュースタイル夜間参拝「ヨルモウデ」(豊川青年会議所有志⦅現・縁日参りプロジェクト実行委⦆主催)がスタート。幻想的なプロジェクションマッピングを中心に、時には着物とデジタルアートを織り交ぜた「着物詣(キモノモウデ)」や、若者に人気のeスポーツ大会をコラボさせるなどし、幅広い世代の来場が実現。eスポーツ大会当日には、普段は境内であまり見かけない若者たちの姿が多く見られ、草間さんは「これを機に、彼らが今後も参拝にきてくれればうれしいのですが。そこにつなげることが課題ですね」と期待する。ヨルモウデは今年も、夏の特別プログラムを7月~8月に開催予定。豊川稲荷としても、個性的なオリジナル御朱印を若い僧侶たちがデザインしたり、地元の企業とコラボしたオリジナルカップうどんを発売したりするなど、初めての取り組みに積極的だ。「伝統を守りながら、時代に合わせて変えるべきところを変えていこう」という方向だ。
ヨルモウデ詳細:http://www.inari-toyokawa.com/
「ただ、私としては多くの方に伝統の御祈祷(ごきとう)の良さも知っていただきたいですね」。祈祷は、家内安全や心願成就などさまざまな内容に対応しており、季節の精進料理を堪能できる「点心」の接待もある。現在は祈祷をした人だけが味わえる点心だが、この先は、点心だけを味わうことや、ツアーを組み合わせる仕組みづくりなど、柔軟な発想での試みを模索中という。
「豊川稲荷は初詣だけでなく、結婚、出産、七五三、受験…と人生の色々な場面で縁がある場所。それを若い方々にも知っていただけるように取り組んでいければと思っています」。
そんな中、豊川稲荷は2030年の一大事業に向けて動き出した。豊川稲荷本殿落慶100周年となる大開帳だ。全国から大勢の参拝者を迎えて盛り上げるためには、稲荷だけでなく、信者や地元商店街なども一丸となることが不可欠。2022年10月には、御開帳を7年ごと行っている善光寺(長野市)へ視察に行った。門前通商店街振興組合が企画し、住職と草間さんをはじめ、周辺商店や市、市観光協会、商工会議所などの関係者が行き、取り組みなどについて学んだ。現在建設中の法堂(はっとう、本堂)が2024年完成予定。豊川稲荷と門前では、大きな賑わいが期待される。