豊川市下長山町にある「東三温室園芸農業協同組合」(以下、東三温室)は、市内で大葉やハーブ、菊花などのいわゆる「つまもの」を生産している生産者の団体だ。なかでも大葉は、そのさわやかな味わいや汎用性の高さから、今やつまものとして添える利用にとどまらず、さまざまなメイン料理の風味づけに欠かせない野菜のひとつとなってきている。東三温室の大葉部と、市内にあるもうひとつの農業団体「JAひまわり」(以下、JA)つまもの部会を合わせると、出荷量は豊橋市に次いで県内2位。さらに市内の農業産出額では大葉が1位を誇っている。
東三温室は大葉をPRするため、JAと一緒にさまざまな活動をしている。豊川市観光協会が認定する「とよかわブランド」のひとつに大葉が選ばれたのをきっかけに、ロゴ入りパッケージを作ったり、イベントを開催したりしている。さらに2022年11月8日が「とよかわ大葉『いい大葉の日』」に制定されたことで、ますます活動の幅を広めている。
東三温室は、1950年に農家16人でスタート。1970年には大葉の生産出荷を開始し、徐々に施設や事業を拡大していった。包装時間の短縮や、大葉の安心安全清潔な袋詰めを目指して、組合が自らメーカーなどと共同で包装機を開発。2015年、圃場(ほじょう)から運ばれた大葉について、極力人の手を触れずに計量から仕分けと袋詰めができる「大葉自動計量包装機」を完成させ、1ライン導入した。この機械はおもに巾着タイプの包装に使われ、2022年の「豊川大葉包装センター」の新設時には2ラインを増設。さらに東三温室が実験に協力し、地元大学と企業が共同開発した「大葉自動選別結束機」も5台導入。AIが画像検査で不良な葉を取り除き、サイズをそろえて結束してくれるというもので、全国で唯一ここにしかない。大葉部の役員、稲垣敦宣さんは結束機について、「悪い葉っぱや異物などを取り除いてくれるので、作業時間の短縮や人件費の削減につながり、とても助かっています」と話す。
稲垣さんが所属する大葉部の生産者数は現在約60人。高齢化により、ピーク時に比べると人数は減少しているものの、その分一人当たりの栽培面積が広くなる傾向があるため、全体としての生産量は順調に伸びている。また生産者の若返りも進んでおり、稲垣さんも20代後半で会社員を辞め、家業に入ったひとりだ。「子どもの頃、手伝いぐらいはしましたけど、農家になろうとは全く思ってなかったですね。おじいちゃんが動けなくなり、『自分がお父さんとふたりでやらなくちゃ』という気持ちが強くなった。それだけです」。
とはいえ、やってみると農業の魅力がわかった。「やるだけ稼げる。決まった休みはなかなか取れないけど、今はとてもやりがいを感じていますね」。
東三温室の大葉はもともとレストランや旅館などで使われる業務用だったが、「家庭でも大葉を食べてほしい」と数年前、量販店への出荷に方向転換した。その矢先に新型コロナウイルス感染症が発生。飲食店の休業により業務用大葉の流通は滞ったが、東三温室では量販店向けの出荷に切り替えていたことに加えて巣ごもり需要により家庭での大葉の利用が増えたことなどから、損害を最小限に食い止めることができたという。ただ現在起きている燃料費の高騰は、温室栽培が必須である大葉の生産者たちに大きな打撃を与えている。稲垣さんも大葉の品質に影響がない範囲で温度や湿度を調節し、節約に取り組んでいる。
稲垣さんは「大葉はもはや、添えものに限らず、食卓の主役級の食材になってきています。『柔らかくて、香りがいい、美味しい大葉なら豊川』と言われるように全国にアピールしていきたいです」。
東三温室園芸農業協同組合HP https://www.tosan.net
JAひまわりHP https://ja-himawari.com