賑やかな子どもたちの声と元気よく走り回る足音が聞こえてくるのは、自然豊かな赤塚山がすぐ近くにある「恵の実保育園」。同園にお子さんを入園させるため豊川に移住を決めたという、吉澤枝里さん。「図書館で斎藤公子さん※の本を読んだことをきっかけに、子どもの生きる力、育つ力を育てていくという考え方に共感し、子どもをそのような環境で育てたいと考え調べ始めて……辿り着いたのがこの「恵の実保育園」だったんです」。
※斎藤公子=(1920ー2009年)さくら・さくらんぼ保育研究所長。障がいのある子どもと健常児が共に育つ統合保育をはじめ、障がい児保育にその生涯を捧げた人物。子どもの身体機能と精神の健やかな育ちを目指す「全面発達の保育』を心がけながら実践を重ね、リズム遊びや絵本の読み聞かせ、歌、自然や小動物との触れ合い、土や水に親しむ遊びを通して、子どもの心と生きる力を育てることに尽力。多数の著作を発表している。
「恵の実保育園」では、運動や食、社会・文化などの面から、子どもの全面発達に適した環境で育てる「さくら・さくらんぼ保育(斎藤公子の保育)」の考え方のもと、保育を実践。科学的に有用と言われている昔ながらの遊びを推奨したり、小さな頃から本物に触れるために陶器の食器を使用したり、足の裏の感覚を養うために裸足で過ごすなどさまざまな工夫がなされている。
また、園を通して子どもも大人も育ち合う一つのコミュニティの形が体現されているのも特徴的だ。イベントや行事を通じて親同士の繋がりも深くなり、子育ての悩みに対して自然とみんなでフォローし合う関係性が生まれてくる。「移住者として周りに身内がいなかったので、助け合いながら安心して子育てができる環境がここにはあると感じました。息子も入園してから随分逞しくなり、変化を感じています」と吉澤さん。
1992年、自宅を使った共同保育グループから始まったという「恵の実保育園」。現在は社会福祉法人として園児70名を預かるほどの大きな保育施設へと成長。2010年には、児童発達支援事業・恵の実「ホップくん」、利用児童の自立を目的とした、児童発達支援/放課後デイサービス・恵の実「ステップくん」、小学生を対象とした公益事業「恵の実っ子クラブ」も併設し、さまざまな個性や年齢の子どもたちが自然に交流できる場を実践している。
長年園長を務めてきた尾崎恵理子さんにこの仕事のやりがいについて尋ねた。「大人も子どももそうだと思いますが、うまくいくこともあればいかないこともありますよね。例えば、跳び箱が跳べなくて『もうやだ~』と言ってどこかに行ってしまう子がいたとして、そういう子がお友だちに励まされて気持ちを切り替えて、再度跳び箱に挑戦しようとする瞬間や、親御さんで悩んでいた方が子どもから学びや気づきを得る瞬間、そういう“成長の瞬間”に立ち会えるのは幸せなことであり、私にとってやりがいですね」。
現在、障がい児と健常児の多様なあり方を相互に認め合える、インクルーシブ教育のロールモデルとして実践しているが、さらにその後、ノーマライゼーションの実現、誰もが生きやすい地域社会へ向けて、2028年に福祉施設の設立を目指す。保育園の枠に留まることなく進化し続ける「恵の実保育園」の今後にますます期待が高まる。