豊川インターから、車でわずか10分ほど。本宮山のふもとに位置する豊川市豊津町は、のどかな田園風景が広がる農村地帯だ。看板に従って、芝生のアプローチを抜けると、まるで絵本の世界に迷い込んだような建物が現れる。市川さん家族が営む『みつばち村のさんぽ道』は、国産のはちみつを扱うショップ&カフェ。地元から県外まで、平日でもひっきりなしにお客が訪れる。
代表の市川洋至さんは、農業関連の会社を退職した後、縁あって静岡県浜松市の養蜂場で15年ほど勤務した。培った経験をもとに、妻・尚美さんと、生まれ育った地元でこの店をスタートしたのは2004年のこと。「豊川インターの南側は活気のある町なのに、北側のこちらは農村地帯。せっかくインターからも近いので、ただ通り過ぎるのではなく、立ち寄りたくなる場をつくりたくて。みつばちと花々が協力してはちみつが生まれるように、人と地域の自然が互いに支え合うような関係をめざしました」と洋至さん。ヨーロッパの片田舎を思わせるような、素朴で温かみのある建物は、周囲のロケーションと調和するデザインにこだわった。また、季節の植物や木々が彩るガーデンは、庭や植物が好きという洋至さん自ら設計を行ったという。
店づくりのコンセプトは“自然にやさしい、そして、体にやさしいもの”。店頭に並べるのは、全国からセレクトするはちみつや、東三河周辺の食材とはちみつを組み合わせたオリジナル商品。素材を最大限に生かすため、余計な添加物を使わないのがこだわりだ。2011年には、豊川市千両(ちぎり)地区の特産品・千両さつまいもを使った「千両さつま芋くり~む」が、農林水産省・経済産業省の「農商工等連携事業」に認定されるなど、地域ブランドの普及にも貢献してきた。
夫婦で築いてきた店のブランドを次の世代につなごうと、昨年には娘の智代(ちよ)さん(写真上)を呼び寄せた。以前は、地元で小学校の教員をしていたという智代さん。将来この店を継ぐため、養蜂場で2年間研修を受け、はちみつについて学んだ。
「みつばちが生涯で集められるはちみつは、たったスプーン一杯分と言われています。春は桜、夏はれんげやみかん、秋はそば、冬はびわといった具合に、はちみつは自然が育む貴重な恵み。ぜひ季節の味を感じてみてください。また、地元産の野菜やフルーツを使ったジャム、シロップ漬け、ジュースなどのオリジナル商品も多く、本当にここは自然も食材も豊かな場所。この空間や商品を通じて、たくさんの人に豊川市の魅力を知ってもらうきっかけになればうれしい」と智代さん。
次なるステージとして、洋至さんを中心に計画を進めているのが、養蜂を体験できるカルチャースクールの開設だ。「子どもの頃って、自然体験から学ぶことってたくさんあるでしょう? でも今は、寒い・暑いや、自然の風や匂い、痛みなどを、生で経験できる機会がどんどん少なくなっています。新たに庭をつくって巣箱を置き、みつばちを飼ってはちみつを採取する。人と自然の関わりを学ぶための、体験の場を提供できたら」。洋至さんが思い描くみつばち村の物語は、未来に向けて進行中だ。