豊川市国府町出身の絵本作家・イラストレーターの壁谷芙扶さん。2022年の春に市がオリジナルで作成した、婚姻届と母子手帳バッグのイラストを手がけた。作品には、とよかわブランドであるバラやミニトマトなどがかわいらしく描かれ、利用者たちから好評だ。このほか、今年は中央図書館でのトークショーに出演するなど、市とのコラボも増えつつある壁谷さん。今、真剣に故郷へのUターンを模索しているという。そんな壁谷さんの人生とは。
絵が好きだった母親の影響もあり、小さいころから絵を描くことが好きだった。幼稚園児の時に絵を褒められたことや、小学校低学年の時に豊橋動物園の写生大会で入賞し、朝礼で校長先生に発表してもらったことなどがうれしくて、漠然と絵を描く仕事に憧れた。本格的に美術を学び始めたのは光ヶ丘女子高校(愛知県岡崎市)に入ってから。美術部に所属し、美大入学を目指してデッサンの予備校で必死に勉強した。そうして入学した名古屋造形芸術短大(現・名古屋造形大)では、おもにデザインを学んだ。卒業後は地元で絵の仕事がしたかったが見つからず、仕方なくプリント会社に就職した。「会社にイラストの雑誌や洋書など素敵な本がたくさん置いてあり、それらを目にするうちにイラストレーターという職業に興味を持つようになりました」。壁谷さんは働きながら、プロのイラストレーターを養成する京都の教室に週1回、1年間通い、実践的なノウハウを学んだ。
最初の転機が訪れたのは26歳の時。世界的に有名な子ども向けファッション誌との出会いだ。当時会社をリストラされ、アルバイトをしながらイラスト制作に専念していた壁谷さんは、子どもや動物を描いた1枚のイラストを、大好きなイタリアの雑誌の出版社に、だめもとで郵送した。すると後日、「一緒に働きませんか」と書かれたファックスが。「私が留守中、まず国際電話をくれたようなのですが、母が切ってしまったんです。母曰く、『詐欺みたいな電話だったから』って(笑)。それはそうですよね。直接電話があるなんて思ってもみなかったですから」。
職業イラストレーターとして夢のようなスタートを切った壁谷さん。雑誌ではポストカードのほか、星占いのページを担当した。単年契約だったが、上京後に出会った業界の知人から「海外での仕事を続けて、国内での仕事の強みにしたほうがいい。絵を持ってイタリアに行っておいで」と背中を押され、壁谷さんは次年度1年分の星占いページのイラストを持ってイタリアへ。「無知だったからできたんでしょうね。英語もしゃべれないのに。でも編集長はそれらの絵を見て、契約の継続を決めてくれました」。結局、海外での仕事を5年間続け、国内でも本格的に活動を開始。ひたすら出版社にイラストを持ちこむ日々が続いた。
次の転機はイラストレーターになって10年経ったころ。ギャラリーの合同企画展に展示したイラストを見た出版社から、絵本制作を勧められる。イラストは描いてきたものの、絵本づくりは全く初めて。「ただ、いつかは絵本を作りたいという気持ちがあったので、出版社のアドバイスを受けながら、頑張って作ってみました」。そして完成したデビュー作「だったらいいな」は、ボローニャ国際絵本原画展で入賞。絵本作家としての道も開けた。
壁谷さんがこれまでつくった絵本の中には、音羽川沿いの赤トンボなど故郷の景色もたびたび登場する。2018年出版の「やまぼう」は地元の弘法山をモデルに描かれている。2022年には、豊川市とのコラボレーションも実現。婚姻届と母子手帳バッグのイラストを壁谷さんが担当した。「幸せな気持ちの人たちが利用してくれていると思うと、私も温かい気持ちになります」。
そのほか、壁谷さんはイタリアの出版社でイラストを描いた縁で、約20年に渡ってイタリアの基金団体「カミッラのおともだち」の日本代表を務め、子ども病院などに色々な絵本を贈る活動を続けている。
「夫の転勤で、全国を転々としましたが、豊川はいいところです。今は東京で仕事をしていますが、ゆくゆくは豊川に戻り、アトリエを建てて絵を描き続けたいと思っています。子どもたちだけでなく、お年寄りの方々にも読んでもらえる絵本が描けたらな」と笑顔で話してくれました。