豊川市千両(ちぎり)町内。一面に広がる赤土の畑で栽培されているのは、生産者グループ「千両会(ちぎりかい)」の人たちが育てているサツマイモ「千両さつまいも」だ。地域の町おこしのために数人の有志で始めた栽培も、市内外の利用者にまで拡大し、いまや子どもからお年寄りまで多くの人たちが活動している。利用者たちは思い思いに地産地消を楽しんだり、和洋菓子の材料として販売したりして千両町の名を広めている。
戦後、この地域ではサツマイモづくりが盛んにおこなわれていた。現在3代目会長を務める古川悦弘さん(同町在住)も子どもの頃、小学校の資源回収では新聞紙よりもサツマイモを出す家庭が多かったのを思い出すという。「そのぐらいサツマイモを作っている人が多かった。たしか隣の大崎町にデンプン工場があって、集められたサツマイモはそこに運ばれ、収益で図書室の本を買ったりしていたね」。
時代の流れで、その後、畑にはミカンなどの果樹が栽培されたが、近年はその果樹も減り、耕作放棄地が目立つ地域になっていた。それを見かねた当時の市議の石原政明さんが2005年、「千両のサツマイモを復活させよう」と、現在、法人の社長をしている藤田慎さんや地元の古川さんら有志を集めて、500平方メートルほどの小さな畑で栽培を始めた。すぐに活動は広がり、生産者も増えてきたことから、2007年に「千両会」を発足させ、耕作放棄地を見つけてはサツマイモ畑を拡大。現在は総面積約1.5ヘクタールで、市内外の利用者約150人、20グループが無農薬・有機栽培でサツマイモを育てている。
栽培しているサツマイモの約70%は、ホクホク感が特長の「紅あずま」。粘土質で固い畑という厳しい環境で育つことで、甘みや旨味が凝縮されているという。収穫したサツマイモを地元の市民館まつりや市内イベント、農業市などで焼き芋やさつま芋スティックにして販売するうちに、市内の和洋菓子店から「材料として売ってほしい」と声がかかるようになった。それを機に千両さつまいもを使ったスイーツが市内約15店舗のショーウインドーに並ぶようになり、2014年には農業法人「千両会」を立ち上げて生産・加工・販売事業に本腰を入れはじめた。2017年10月に豊川市総合体育館で開催された「かわしんビジネス交流会」では、市内の飲食店や和洋菓子店計20店舗が千両さつまいもを使って作った料理やスイーツを販売し、好評を博した。現在は各グループが収穫したサツマイモ年間計1.5トンを千両会が買い上げる形で店に収めている。残りの30%は生産者が個人レベルで食べたい品種などを育てて、知り合いの人に配ったり、「芋ほり」を楽しんだりしているという。
また千両会としても秋の芋ほり会を開催し、千両町を知らない人たちが土地に足を運んでくれる機会を作ったり、市内の児童養護施設にサツマイモのスイーツを贈ったりする活動も続けている。
古川さんは「豊川には使われていない農地がまだまだ残っている。小さな土地でもぜひ活用をしてほしい。千両町については、ここは古くから栄えた歴史ある土地なので、ぜひ『ちぎり』という読み方というのも知ってもらえたら」と話し、藤田さんは「私は千両町の人間ではないのですが、千両町の人たちは本当に人に優しい。よそ者の私たちも快く受け入れてくれています。定年後に何かやりたいと思っている人がいたら、町おこしのために、ぜひ一緒に活動していきましょう」と期待した。