まちが動き出し始める、朝7時の開店。ロースタリーカフェ「hikure.(ヒクレ)」の扉を開けると、抜け感のある空間に自家焙煎コーヒーの香りが広がる。大きなL字型カウンターの前に立ち、笑顔で迎えてくれるのは、金髪がトレードマークの店主・石部陸さんだ。2022年4月8日にオープンして間もない新店だが、「おはようございます!」で会話が始まり、「行ってらっしゃい!」と見送られる気持ちいい時間は、少しずつ地域の日常になりそうな予感。
「以前バリスタとして働いていたメルボルンのカフェが、7時から15時までの営業だったんです。6時に出勤し、夕方にはスケボーで遊びに行く生活が充実していて。現地の人たちが毎朝カフェに寄り、コーヒーを飲んでから仕事に行く文化も好きだったので、自分なりに表現しました。ひとまず継続してみて、豊川にもそんな文化ができたら面白いですね」。
スペシャルティコーヒーのみを扱い、店内・テイクアウトのコーヒー提供と、オンラインショップも含むコーヒー豆の量り売りがメイン。コーヒー豆は浅煎り・中煎りのシングルオリジン数種類に加えて、喫茶店テイストの深煎りブレンドを用意する。「コーヒー単体でも楽しめるのが、スペシャルティコーヒーの魅力。料理の素材を引き出す考えで、時間によって表情が変わる一杯の豊かな味わいを、見出してもらえるように届けたいです」。
石部さんがコーヒーに興味をもったきっかけは、写真家の叔父さんに連れられて、喫茶店に通っていたこと。大学時代に「コーヒーを勉強したい」と就職の内定を辞退し、メルボルンでバリスタ修業へ。
帰国後は地元の「スペシャルティコーヒー蒼」で、ロースターの専門知識を身につけた。入店当初の先輩だった後藤充暁さんのカレー屋「cojigoro(コジゴロ)」で平日働き、土日は「蒼」の移動販売や焙煎を行う日々。「『蒼』の倉橋さんや『cojigoro』のミッチー(後藤充暁さん)の背中を見て、僕も頑張らなきゃ」と、27歳の春に独立を果たした。
石部さんに開業候補地は他にもあったのか? と尋ねると、「生まれ育った豊川がいいですね。子どもの時から可愛がってもらっているヘアサロンの『ParK(パーク)』さんから、『まちを一緒に盛り上げよう』と言われていたのがずっと心にあって。最近では若い子も、カレーは『cojigoro』、音楽は『LiE RECORDS(ライレコード)』、服は『analog(アナログ)』、家具や雑貨は『SPROOF(スプルーフ)』、焼菓子は『PORCO(ポルコ)』、コーヒーは『蒼』…という思いを持った店主のところに行く暮らしになってきました。これも先人たちのおかげです」。
店のある地名「日暮」の読み方を変えた「hikure.」のコンセプトは、“日が暮れるまでの溜まり場”。「イベントを企画したり、友人と話したり、一人で本を読んだり、自由に利用してほしいですね。そこに、僕のコーヒーがあればいいな」。