店内に漂う、香ばしいバターの風味や、甘酸っぱいフルーツの香り。愛知御津駅近くにある『PORCO』は、アメリカやヨーロッパ各地のホームメイド菓子を中心としたベイクショップだ。開店時間を目指して、オーナーシェフの松山悌大さんが奥のキッチンで焼き上げ、接客サービス担当の妻・さおりさんが、次々とカウンターに並べていく。マフィン、タルト、パイ、スコーン、ビスケットにバナナブレッド……その数、ざっと15種類ほど。オープン前から並ぶ人も多く、昼過ぎには売り切れてしまう人気ぶりだ。
「生地からすべて手づくりしています。焼き菓子というと、個包装されて日持ちがするギフトの印象が強いと思いますが、うちで出すのは“フレッシュベイク”。焼きたてを紙袋などに入れて手渡しし、その日のうちに食べてもらうイメージです。たとえるなら、パン屋さんの形態に近いでしょうか」。
そう話す悌大さんは、豊川市でベーカリーを営む両親のもとに生まれた。根っからの職人気質で、子どものころから、お菓子やパンをつくるのが好きだったという。名古屋市の製菓専門学校でお菓子作りを本格的に学び、岡崎市のパティスリーに就職。その後は、東京や神奈川でカフェ、パン、料理などの飲食経験を幅広く積んだ。
同じく東京で働いていた妻のさおりさんとともに、豊川市へのUターンを決めたのは、新型コロナウイルスによる世の中の変化がきっかけ。地元でのイベント出店などを経て、2021年11月に念願の開業を果たした。
「地元に戻って改めて感じるのは、三河って恵まれた場所だなあと。お隣の蒲郡市は全国的なみかんの産地ですし、渥美半島には果物や野菜も豊富。味噌などの伝統食材や酪農もあります。いま、コロナを機に地方が注目されていますよね。生産者さんと一緒に、店を通じてこの地域を盛り上げていけたら」と悌大さん。
商品は定番のほか、旬の食材を使った季節商品をラインナップする。冬は豊橋産のレモンを主役にしたマフィン、春は知多半島の甘い有機にんじんのキャロットケーキなど、三河周辺の食材を積極的に活用。西尾のお茶を使った新作も計画中という。また、今後に向けたステップとして、この春には一日限定モーニングも開催した。この日のために用意したブレックファーストプレートは、バターミルクビスケットに、同じ御津町内の「榎本はちみつベリーファーム」による平飼い卵を使った目玉焼き、豊橋市「moriウインナー」のソーセージ、地元産の新鮮なグリーンサラダを盛り合わせた充実の内容だ。
「現在はお菓子の販売がメインですが、この先スタッフを増やして徐々に体制を整えていく予定です。カフェでは一日を通してスープや軽食、コーヒーなどが楽しめて、パンのテイクアウトもできるようにしたい」と二人は話す。一時期に比べて店が減ってしまったこの御津駅周辺で、店のオープンを喜んでくれたご近所さんも多かったという。中には、週に何度も足を運んでくれる常連客も。“地域の人の日常になるような場”を目指し、二人は今日も想いを込めて焼き続ける。