豊川市の中心部にある桜の名所「桜トンネル」。市役所をはじめ、図書館や陸上競技場などをつなぐ散策路として市民に親しまれている。そのトンネルの、体育館側のケヤキ並木から入った道沿いに、昭和の飲み屋の雰囲気漂う長屋のような一角がある。しかし、そのイメージとは相反し、外壁にはかわいいバッグや小物などが展示。「いったい何の店?」中に一歩足を踏み入れると、そこはハンドメイド・ワールド!オーナーの駕籠島好恵(かごしま よしえ)さんが、はきはきとした明るいあいさつで出迎えてくれる。
駕籠島さんは山口県出身。ご主人の仕事の関係で15年前に豊川市に移住した。当時はフリーマーケット(フリマ)全盛期。自分の子どもたちの服や、給食用のマスクなどを作るようになったのをきっかけに、ハンドメイドに目覚めた駕籠島さんは、フリマでマスクなどを販売するように。コロナ禍によって色々なマスクが出回るようになった今と違って、当時は白いマスクが主流。駕籠島さんが作ったおしゃれなマスクは人気を呼んだ。「このコロナ禍でも、たくさんのマスクを販売しました。店の前に行列ができるほど。お役に立ててよかったです」。
転機が訪れたのは3人目の子どもがおなかにいた頃。日課にしていた桜トンネルの散歩中、ふと朽ちかけた長屋が目に留まる。「もったいないなあ」。そして「ここでお店をやろう」と思いついた。建物に掲示してあった不動産会社に連絡を取り、3軒のうちの1軒を借りた。改装費用などは、全てフリマ貯金で賄った。「もともと貯金が趣味(笑)。フリマの収入は一銭も使わず5年間貯めてあったので、夫も快諾でした」。乳飲み子を抱えて精力的に動き、公共職業安定所を通してスタッフを雇い、委託販売の作家を募集。2010年5月、桜トンネルがにぎわう豊川市民まつり「おいでん祭」の日にオープンした。告知もなかったが、その戦略が当たり、多くの人が立ち寄った。店名は故マルコス元大統領の妻の名前「イメルダ」から付けた。「独身の頃、私すごく派手で、周りからそう呼ばれていたので付けちゃいました(笑)」。
開業8年後には長屋全体の土地を借りて店を拡張。現在は約20人の作家が定期的に作品を持ち込み、奥行きわずか170センチメートルの壁面は作品で埋め尽くされている。また店の半分は教室スペースになっており、編み物や手芸など楽しいレッスンやワークショップが繰り広げられている。さらに、いまだに雑貨店であることに気づいてない人や、知っていても入りづらいと感じている人たちもいるため、店の外でもイベントを開催。月に一度はJAひまわりグリーンセンターにも出店している。店には今や、幅広い年齢、男性なども訪れるようになった。「気軽に店をのぞいてほしいです」。
「豊川は野菜も安いし、人々が穏やか。ここで開業できてよかったです」と駕籠島さん。市内でコンテナショップを開くことを夢見て、自宅に帰ってもミシンを踏み続け、作品制作に励んでいる。「小学6年生の娘が、ほとんど夕食を作ってくれるんですよ。家族の協力あってこそ。感謝しています」。