宙返りやバク転などアクロバティックな技の完成度を競う「トリッキング」。世界大会で、豊川市の中学1年生、加納弥都さんが大活躍を見せている。演技となるとそのあどけない印象が一転、男性顔負けのエネルギッシュなパフォーマンスを繰り広げる。夢は「ずっと女子のチャンピオンであり続けること」。加納さんは、はにかんだ笑顔を輝かせている。
トリッキングは、武術をベースにした比較的新しいストリートカルチャー。平らな場所で動きの独創性や美しさ、難易度を競い合う競技だ。競技人口は若い世代を中心に増えており、その中でも、世代トップクラスの活躍を見せているのが加納さんだ。
田んぼが広がるのどかな町で、金属リサイクル会社を経営する父、母、弟の4人で暮らす。幼い頃から近くのダンス教室に通い、小学生になると市内宿町の「リーフ体操クラブ」で体操を始めた。そこで出会ったのがトリッキングだ。当時クラブの体操コーチだった桜井鷹さんが見せたアクロバティックな技に、「かっこいい!私もやりたい」と飛びついた。桜井さんは日本のトリッキング界をけん引するプレイヤー。桜井さんが東京に活動拠点を移してからもオンラインで指導を受け続け、自宅の練習場や庭などで自主練習を重ねている。
大会デビューは小学5年生。埼玉県であったトリッキング全国大会「極限武術2022」に初出場し、年齢性別無差別部門で3位に入賞すると、アメリカの大会「Adrenaline(アドレナリン)2022」では女子の部で優勝。その勢いでオランダの首都アムステルダムで開かれたトリッキングのオリンピック、「HOOKED(フックド)2022」に参戦し、年齢性別無差別の中、女子としては初めて予選通過を果たした。絶好調のスタートだった。
ところが学年の終わりごろに試練が訪れる。左股関節の疲労骨折。2か月以上練習が途絶えた。練習再開後は、これまでのような毎日のハードワークはやめ、休息も含めたメリハリのある練習を心掛けた。
こうして6年生の6月、ノルウェーの首都オスロで開催された「Oslo Movement (ムーブメント)2023」に参加。U-16部門で優勝すると、続く7月の「Adrenaline2023」でも前年に続いてチャンピオンになった。ところが、この大会の帰り道で再び不運が。「飛行機の中で席から立ち上がろうとしたら、太ももの付け根が痛くて立てませんでした。優勝でテンションが上がっていたのか、その時まで全く痛みに気づかなかったんです」。
今度は右股関節の疲労骨折だった。「痛い思いをしても、次の日には忘れちゃうタイプだから私は大丈夫。ただ、お母さんの方がずっと落ち込んでいました」。
それでも、体のケアを大切にしながら練習し、約8ヵ月後の2024年3月、「極限武術2024」で復帰し、女子部門で優勝を収めた。
4月には中学生になった。積極的に新しい友だちを増やして学級委員にも立候補。勉強とトリッキングの両立は大変だが、海外大会の時も友だちがノートを取って協力してくれたり、先生も応援してくれたりしてとてもうれしい。苦手な英語も、将来一人で海外に行けるようにと頑張っているところだ。トリッキングの練習については、小学生の頃はお母さんから全面的な協力をしてもらっていたが、今は何でも一人でしたいという気持ちが強い。海外の大会は、自身も出場する桜井コーチが毎回引率してくれる。今のところ家族は一度も同行したことはないが、その方が、かえって、のびのびと演技できている。大会はダンスバトルのように、1対1や2対2でお互いの技を交互に見せ合う対戦形式。このバトルが楽しくてしょうがない。トリッキング界のレジェンド選手などとバトルできたり、親交を深められたり、技術を学べたりする大切な場にもなっている。
夢は世界大会で女子チャンピオンであり続けることだが、一番近くの目標は、コーチを倒すこと。6月にあったオスロ大会では年齢性別無差別のオープンクラスに出場し、女子としては同クラス初の4位に入賞した。実は3位決定戦で桜井コーチとぶつかって敗れ、その悔しさが大きい。
「次は先生に勝ちたいです。そして大人になっても、ずっとトリッキングに関わっていたいと思っています」。