「LIE RECORDS(ライレコーズ)」の店主である平松章也さんは、東京で介護職に就いていたが、ある日、現在の店の裏にある電気工務店で働く幼なじみの友人から「会社がレコード屋をやりたい人を探しているらしい」というひょんなきっかけから、そのタイミングで地元・豊川に戻りレコード店を開業に至る……というちょっと不思議な経歴の持ち主。
「そのまま普通に働いていたらこんなふうに自分が本当におもしろいと思えるカルチャーを楽しみながら、地元で働くなんてことはできなかった。話を聞いてやるっきゃないなと思って。こういうチャンスは田舎だからこそあるんじゃないですかね」と平松さん。
突然、レコード店をやれることになった平松さんが頼りにしたのが、広島のレコード店「STEREO RECORDS(ステレオレコーズ)」。仕入れや買取などの最低限のノウハウを教えてもらった、とは言いつつも、3〜4時間程度の短い時間のレクチャーだったそう。そのまま2020年に開店。最初期は今よりも物量も少なかったそうだが、そもそも平松さんは個人的な趣味で約3,000枚ものレコードを収集するほどのレコードフリーク。だからこそその確かな目利きによってセレクトされたロック、ジャズ、ヒップホップ、歌謡曲、マニアックなものからクラシックなものまで新譜も中古もジャンルレスに取り揃えられており、開店してまだ1年という早さで、現在は豊川のみならず全国からレコード好きが足を運んでくれるようになったという。
豊川について聞いてみると、「この地域って、意外とみんなちゃんとお金持ってて、だけどすることがない場所で(笑)。商売するのには向いている土地柄なのかもしれないって今は思います。あとは、みんなゆるいのが良いですよね。変なことやってても受け入れてくれるのが不思議なんですよね」と平松さん。
近所に住むご老人の方々も、昔買ったレコードを売りに来てくれるというのもこの場所ならではの微笑ましいエピソードなのかもしれない。平松さんの活動は単にレコード店主だけには留まらず、 DJとしての活動も。さらには 「以前働いていたこともあって、老人ホームにレコードプレーヤーを普及したいって思っています。昔の演歌やカラオケベスト20とか、店頭で売れないものでも喜んでもらえる可能性があるし、懐かしい音楽を聴くことで音楽療法的な効果も期待できるんじゃないかなって。他にも学生にレコード視聴のワークショップをしたり、ゆりかごから墓場まで、ではないけれどそんな風にレコード文化を広げていきたいですね」と平松さんならではのアイデアが詰まった、今後の展望もあるようだ。
偶然と偶然が重なり、趣味と仕事を両立できるチャンスを掴んだかのように見えた平松さんだが、本来彼の持つユニークな人柄と好きなものに対する一途な姿勢に魅せられて多くの人が惹き寄せられた結果、この不思議な魅力を纏ったレコード店がここに生まれたのかもしれない。