国道362号線を1本入ると、海外のような雰囲気を持つ、カフェ併設のバスケットボールコートが突如現れる。2020年9月にオープンしたこの施設は、豊川市出身で現在、ラジオDJとして活躍する小林拓一郎さんが、仲間たちとともに立ち上げた話題のスポット。
「実家は代々続く農家で、亡き父が残してくれたこの土地は、元々は母が汗水流してブドウを育てていた畑だったので、『グレープパークコート』と名付けました。僕は中学でバスケ部に入って以来、アメリカの大学に留学するほど熱中し続け、バスケットボールが今の人生に大きく影響しています。みんなが自由に使えるバスケットボールコートを作りたいというのは、自分の中でずっと温めていた夢でした」と小林さん。
ブドウ畑の石柱を抜く整備から苦労のスタートだったが、小林さんと家族に、友人が加わり、SNSで作業動画を配信したことで、各地から手伝う仲間が集まった。そして、「豊川のためにあなたが動いてくれるなら」と、地元の造園業者や左官屋などの頼もしい専門業者も協力。クラウドファンディングで約1380人から1200万円以上の支援を得て、小林さんの想像を超えるスピードで、念願のコートが完成した。「僕がちっちゃい小石を投げたことで、波紋のように人の輪がどんどん広がり、今もいろいろな人たちに支えられています」。
公園のようなパブリックスペースをイメージし、年齢制限なく、営業時間内はコートを無料開放。「グレパー」の愛称で呼ばれ、ルール&マナーを守り、周辺のゴミ拾いや清掃もみんなで行うように小林さん自らが率先して促し、地域に愛される場所に育てていった。平日の昼間は大人を中心にゲームが始まり、夕方は学校終わりに子どもたちが自転車でやって来て、土日も大人気。緊急事態宣言下で部活やクラブチームが休止されたころは、体を動かせる貴重な場所になった。
コートの管理人であり、カフェの店長を務める大内舞さんは、開業を機に名古屋から豊川へ移住。「生まれ育った名古屋が大好き。地元のコーヒーショップで8年働き、『他のまちから名古屋を見たらどうなのだろう?』と思い、自分の好きなことを通じて、みんなに楽しんでもらう場を提供できるこの『グレープパークコート』で働こうと決めました。引っ越す前は不安もありましたが、実際に来てみたら、みんなが助けてくれて楽しく暮らしています」。
ここではバスケットボールだけの枠にとらわれず、防災訓練やマーケット、スケボーイベント、ライブペインティング、バランスボール体験会なども開催。「もっと幅広い人たちに、バスケットボールを身近に感じてほしいんです。そこからBリーグ観戦に行こう、NBAの試合を見てみようとなり、将来的にはここで遊んだプロ選手が生まれたらうれしいですね」と小林さん。活動と人の輪が大きくなるとともに、豊川市を舞台とした二人の夢も膨らむ。