「豊川稲荷」として親しまれる、豊川閣妙厳寺の門前町。風情ある町並みに溶け込むように建つのが、オーダージュエリーの工房&ショップ「ainowa(アイノワ)」だ。店名の由来は「愛の輪」。ジュエリーを通じて、愛の輪、そして、人や地域の縁が広がるように、との願いが込められている。
店を営むのは、地元出身のジュエリー職人・佐藤勝亮さんと、ジュエリーコーディネーターとして店をサポートする妻・幸子さん。マリッジ&エンゲージリングをはじめとした、世界で一つのオーダーメイド製作がメインだ。勝亮さんが手掛けるジュエリーの技法には、溶かした地金を型に流す鋳造(ちゅうぞう)と、丹念に叩いて密度を高める鍛造(たんぞう)がある。特に、後者の鍛造はきめ細やかで壊れにくく、職人ならではのクラフトマンシップが光る。また、気に入った色石(カラーストーン)を選び、ジュエリーに仕立てられる点も大きな特徴だ。
過去の作品例を見せてもらうと、夫婦の家紋をモチーフにした独創的なデザインや、色とりどりのストーンを組み合わせたものなど、ひとつとして同じものがないことに驚く。「特に時間をかけるのがヒアリング。結婚指輪ならどういう夫婦になりたいかという家族理念や、“愛”という目に見えないものを形にしていきます。もちろん、結婚指輪に限ったことではなく、日々の心の支えになったり、前向きな一歩を踏み出す勇気を与えたり。自分らしく生きるための、お守りのような存在になれたら」と勝亮さん。
勝亮さんは、念願だった独立の地、そして子育ての場として、生まれ育った豊川市門前町を選んだ。新城市から移り住んだ幸子さんに町の印象を尋ねると「商店街の皆さんが、うちの子どもたちにもよく声をかけてくれるんです。こうした交流がある地域って、今では少ないですよね」。
店のオープン当初から、ジュエリー製作と並行して取り組んできたのが、イベント開催だ。豊川市に手作り文化が根付くきっかけになればと、豊川稲荷の境内を借りて「豊川手しごと市」を立ち上げた。たった10ブースから始まった小さな市は、2018年には60ブース、約5000人の来場者を集めるまでに成長。門前町にも、新たな賑わいを呼びこんだ。
イベントを機に、よりカジュアルに楽しめる新商品「幸せのプチリング」も生まれた。見本から好みのデザインを選んでもらい、職人が目の前でサイズに合わせてリングを作り上げるというもの。プチリングを気に入ったカップルが、結婚の際にマリッジリングをオーダーするケースも増えているという。
「イベントは大変なことも多いですが、出店者さんや、遠くから足を運んでくれるお客さまなど、みんなが喜んでくれるのが何よりです。歴史も文化もあるこの商店街ですが、それって永遠じゃないし、どんどん活性化していく必要があると思うんです。一度行って終わりではなく、“また行きたい”“あの人に会いたい”と思ってもらえるように」。そう話す二人の笑顔が、今日もたくさんの人を惹きつけている。
※取材・撮影時のみ、マスクを外して撮影をしています。