コーヒー、カレーライス、カレーパン。ポップなイラスト&文字の看板とスパイスの香りに誘われて扉を開くと、アートや音楽、本、雑貨が散りばめられた店内に、カルチャー好きの心がくすぐられる。フレンドリーな笑顔で迎えてくれる、みっちーことオーナーの後藤充暁さんは、30歳のときに建築業のサラリーマンから飲食業へ転身。
「おじいちゃんになっても、手に職をつけたかっこいい仕事を続けたくて、飲食の道へ。サラリーマンの仕事で気分がちょっと落ち込む時期に、現実から離れて、ふらっと気軽に立ち寄れる場所が欲しかったのですが、僕は豊川で見つけられなかったので、自分で作ろうと思ったのもきっかけです」と後藤さん。
5年で独立すると決め、豊川の自家焙煎コーヒー専門店「スペシャルティコーヒー 蒼」のスタッフとして、コーヒーを勉強しながら、キッチンカーで各地を巡って経験を積んだ。「『蒼』の倉橋さんは、積極的に若者を育ててくださる優しい方で、僕もめちゃくちゃお世話になりましたね。スパイスカレーは趣味で作っていたのですが、移動販売先のリクエストを受けて、コーヒーとカレーの提供スタイルに。当時のお客様が今の店に来てくれることもあり、出店の一つひとつが人の輪になっています」。
豊川で生まれ育ち、愛着のある地元で店舗の物件も探した後藤さん。「ここはサラリーマン時代の通勤路だったので、以前から知っていたんです。おばあちゃんが喫茶店のシャッターを開け閉めする日常を見て、いい生活だなと思っていました」。
豊川稲荷のイベント「縁」を一緒に開催した市役所職員からの紹介で、この物件を引き継ぐ若いオーナーを探していると聞いたが、店舗が狭くて即決できずに月日が経過。気になったまま2年悩んだ末、空間デザインを依頼したライフスタイルショップ「スプルーフ」の白井さんと内見し、客席数を減らしてテイクアウトをメインにした業態を思い付く。そして、奥様のこずえさんと二人で2019年7月に店をオープン。最寄りの名鉄国府駅を利用する通勤者やご近所の新興住宅地住民、店の前の通りを往来する車から注目を集め、スパイスカレーブームやコロナ禍のテイクアウト需要にも応えてファンが増加した。
「テイクアウトはカレーパンが有名になりましたが、嫁のアドバイスで始めたルゥの販売もご家庭用に喜ばれています」。看板商品のスパイスカレーはごはんに合うカレーをイメージし、豊川の人たちの舌に合わせて、国産の白米を使った親しみやすい味。11〜19時の通し営業で遅めランチにも対応し、コーヒーやスイーツ目当てのカフェとしても使える。ユーザー目線を大切にした店は、好きなものがリンクする人が人を呼ぶ、アットホームな雰囲気だ。
「常連のころから手伝っていた流れで」「通っていた親にアルバイトを勧められた」というスタッフが仲間入りしたり、馴染み客の大学生が就職の報告に来たり、と大きな家族のような店のストーリーが、これからも紡がれていく。